マルセル・モイーズ私感
- 中川 康大
- 2014年1月29日
- 読了時間: 2分
以前お世話になっていた方がモイーズのことを「エキセントリック」と表現していたが、私はモイーズは「普通」に「王道」を歩んだ音楽家だと認識している。ただ、こういった認識に至ったのは、モイーズの本質を見通した研究者が幸い日本にいたからである。
モイーズに興味を持ったのは、その方の演奏の音源を聴いて感動したところからはじまる。余りに心に染み入る音楽だったので、彼の信奉するモイーズとはいったい何者かと思った。そして彼がレコードから復元したモイーズ音源を聴き、彼のモイーズに関する各種の見解に目を通し、その真実を見抜く的確な指摘に全く同意するに至った。
モイーズは、優れた歌手の歌や弦楽器奏者の演奏に影響を受けている。それを表す特徴を以下に示す。第一に、高く(音程のことではない)密度の濃い響きを全体に均一に持っていること。第二に、アタックが一瞬で響きのボディに達していることが挙げられる。もちろん、この二つのポイントは互いに緊密に関係しあっている。逆に言えば分割されることは実質できないと思われる。
私の耳には、現代のフルートの基本が上記と真逆になっているように聴こえる。低く、重く、不均質、響きのボディへの到達時間が異様に長い。歴史的にそういう演奏スタイルが確立され大多数になっている以上、フルート業界的にモイーズが変わり者と認識されるのは致し方ないことであろう。ただ、私が率直に問いたいのは、フルート業界の価値観と一般的な聴衆の価値観は別なのではないかということである。
音楽を愛するひとびとが求めるのは、おそらくモイーズのような演奏であろう。理由は簡単。音楽的に全くの王道を行っているからである。
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